夏の風物詩の1つ、灯篭流し。静かに更けた夏の夜、色とりどりの灯篭が一斉に川を流れていく光景は圧巻で、感動的にすら見えます。
実際に灯篭流しをしたことがない、という方も、テレビや写真などでその光景をご覧になったことがあるでしょう。皆さんの気持ちがしっかりと込められた灯篭が、淡い光を保って静かに流れていくのです。しかし、この灯篭流し、全国で行われているものではないんですね。
死者の魂を弔う為に行われる行事ですが、灯篭を海や川へと流すことで環境の汚染を心配し、色々な配慮を行う地域もあります。今回は、灯篭流しに込められている意味や、行われている場所など、この行事についてお伝えしたいと思います。
1.《意味》灯篭流し=死者の魂を弔うもの
灯篭流しとは、お盆の行事の1つです。故人を送り出す送り火として、魂を慰め、弔い、灯篭やお盆の供え物を海や川に流すという、日本古来から伝わる伝統行事になります。地域によって細かい部分は違いますが、自分の手で灯篭に名前やメッセージを書き、中に小さなろうそくを灯して、それを川へ流していく、大まかに言うとそんな行事になります。では、この行事を行っている代表的な地域をいくつかあげてみましょう。
- 福島とうろう流し花火大会。花火大会も同時に開催されます。
- 横浜大岡川灯篭流し。
- 京都嵐山灯篭流し。嵐山では送り火の「鳥居形」「大文字」を見ることが出来ます。
- ピースメッセージとうろう流し。主として、原爆被害者の魂を送る為に、広島で行われています。
そのほかの地域でも行われていますが、昨今では海や川の汚染が問題になり、灯篭や供物を流すことを禁じているところもあります。汚染の問題については川の下流で回収したりするようですが、それでも夜に静かに黒い川の上を灯篭が流れていく様子は、とても幻想的で美しいものです。
灯篭には、それぞれ作った人の思いが込められています。故人の冥福を祈り、愛と感謝を伝え、どうか心安らかに戻れますようにと、皆さんが精一杯の気持ちを込めて灯篭を流していきます。夏の風物詩とも言われる灯篭流しですが、そこに込められた意味や気持ちを、しっかりと私達も知っておきたいところですね。
2.《場所》灯篭流し・精霊流し
灯篭流しと同じように、精霊流しと言うものが日本にはあります。精霊流しも、意味合い的には基本は同じです。ご先祖様や故人の魂を送り出すために行われる行事です。精霊流しの方は長崎県で行われますが、灯篭の他に精霊舟と呼ばれる藁で作った舟を流します。
灯篭流し|広島県
灯篭流しは広島県が有名な名所です。原爆で亡くなった方たちの供養のために、遺族達が手作りの灯篭を流したというのが広島の灯篭流しのきっかけのようです。ですから、ここではお盆の日にちに関係なく、原爆が投下された8月6日の夕方から、広島の灯篭流しは行われます。
広島には川が多く、原爆が落ちた直後、被爆して傷ついた人達はみんな水を求めて、川へと飛び込んでいき、そして力尽きた方はそのまま溺れ死んでいったといいます。
そういう意味でも、その魂を慰めて送るために、原爆ドーム近くを流れる元安川へ灯篭を流すのは、残された遺族達の悲しみと共に、せめて安らかであるようにとの祈りが込められているからでしょう。
こちらは、原爆で受けた深い傷を持つ人達が沢山いる地域ですから、灯篭に故人の名前を書くだけではなく、平和への思いを込めたメッセージも書き連ねることが殆どです。子供達が、小さな手で「世界が平和になりますように」と灯篭に書いて、原爆の落ちた8月6日の夜、そっとそれを川へ流していく様子は、純粋に平和を祈る気持ちがあらわれています。
灯篭流しは、もともと「送り火」が変化していったもので、お盆に行う「迎え火」と「送り火」と同じ役割を意味ます。
迎え火は、お盆の13日に焚きます。ご先祖様や故人の魂が迷わないようにという目的で、盆提灯などで火をともして魂を迎え入れます。そしてお盆の間、故人のために供物を捧げておもてなしをするのです。送り火とは、16日に故人を送り出すために焚かれる火のことです。そこから、灯篭の中の小さなろうそくに火をともして、故人をおく出すために、それを流すことが始まったのです。
精霊流し(しょうろうながし)|長崎県
精霊流し(しょうろうながし)は、長崎県の各地、熊本県の一部及び佐賀市でお盆に行われる、死者の魂を弔って送る行事のことです。
初盆を迎えた故人の家族らが、盆提灯や造花などで飾られた精霊船(しょうろうぶね)と呼ばれる船に故人の霊を乗せて、「流し場」と呼ばれる終着点まで運ぶ行事です。
▼龍の形をした精霊船
3.灯篭流しは故人を尊く思う神聖な風習大切なポイント
まだ灯篭流しをしたことがない、一度やってみたい、という方は灯篭流しを行っている地域を調べてみてください。季節になると、灯篭流しは行事として大々的に宣伝されます。しかし、これは死者の魂を送り出すための儀式と言うべきものです。
決してはしゃいだ気分や、浮かれたお祭り気分で行うものではありません。イベントとして行っている地域も多いですが、その中でも灯篭流しだけはきちんと心を込めてやりたい、と多くの人達が集まってきます。いわば、お墓参りの時と同じ。故人に対して、祈りを込めて、自らの手で灯篭に名前を書いて流していくのです。故人に失礼のないように、冥福を祈り、今の私達がこうして生きていられることに感謝しながら、灯篭を流してみましょう。
また最近では、各地の灯篭流しでも、名前の他にメッセージを書いて流すところも多いです。子供達のように平和を祈る言葉や、故人に向けた感謝の気持ち、大切な思いを書いてみましょう。あなたの書いた灯篭とともに、故人の魂は安らかに戻っていくのです。
故人を悼む気持ち、ご先祖様を大切に思い感謝する気持ち、それは確実に昔から日本に伝わっているものです。それのあらわれが、灯篭流しと言う行事に繋がったのでしょう。昔の人達の気持ちを踏みにじらないよう、私達も是非「ありがとうございます」「どうか心配しないで下さい」「これからも見守っていてください」という気持ちを込めて、その伝統を守っていきたいですね。
▼金沢市 加賀友禅 灯篭流し/Kaga-Yuzen Lantern Floating Festival in Kanazawa
見ていると、幻想的であり美しい光景。1万個ほどの灯篭が川を流れていく様子は、故人の魂を慰めるとともに、残された遺族の心をも慰めてくれるかのようです。残された人達の気持ちは、やはり辛く苦しく悲しいものです。しかし、私達は「今」を生きています。そして、その生を無駄にしないためにも、誓うような気持ちで灯篭を流される方もいらっしゃいます。灯篭に込める思いは人それぞれですが、どれも真剣であることは間違いないでしょう。
4.まとめ
ただ灯篭を流すだけの行事であったなら、ここまで美しく人の心を惹きつけたりはしません。もういないあの人へ、せめて伝えたい言葉を添えて、そして何よりも心を込めて灯篭を作り、自分の手でそれを川へ流していくからこそ、悲しくも美しく、儚げだからこそ美しい、そんなところが灯篭流しとしての行事の魅力なのでしょう。昔の人達が私達に伝えてきたように、これからも、私達が未来の世代へと伝えていきたい、大切な日本の伝統行事の1つですね。
決してお祭りではありません、楽しみの行事として思い違いをしないことは礼儀で故人を思うことに与えられた大切な時間である本質を伝承していくことが大切です。