大晦日の夜、日本で年を越す時に必ず響いてくるのがお寺の除夜の鐘。
年が変わる前後には、テレビでも除夜の鐘の音とともに各地の様子が中継されますね。歌の祭典から一転して、急に気持ちが引き締まります。
鐘の音に静かに耳を澄ますと、何とも言えないおごそかな気持ちになります。
今回は、そんな除夜の鐘にはどんな意味が込められているのか、また鐘を撞くタイミングや作法など、新年を迎える私達も知っておきたい情報を紹介します。
1.除夜の鐘とは(じょやのかね)
除夜の『除』という字の意味はまさに一年の終わりにふさわしい意味が込められています。
『除』の意味
古いものを捨て去り、新しいものに移るという意味合いがあります。
一年の最後の日であり、間もなく新年を迎える大晦日のことを『除日(じょじつ)』といい、除日の夜なので『除夜』といいます。
除夜の鐘は、その大晦日の夜ちょうど日付が変わる深夜0時を挟んで108回鳴らします。107回までを年内に撞き、日付が変わってから最後の108回目を撞く習わしです。
除夜の鐘を鳴らす行為は、鎌倉時代に中国から伝わったとされており、室町時代から江戸時代にかけて、お寺の繁栄とともに多くの寺院で除夜の鐘を撞く習慣が広待ったのが起源です。
2.除夜の鐘を108回鳴らす理由
先述のように除夜は、旧年を去り新しい年を始める節目となる大切な一夜です。
清らかな鐘の音を聴くことによって、一年間に犯した罪を懺悔し、煩悩をなくし、新しい気持ちでこれからの一年を始めていく、そんな大切な意味の込められた儀式なのです。
なぜ除夜の鐘の回数は108回なのでしょうか。信ぴょう性が強い説のみを抜粋します。
説⑴人間が持つ煩悩の数108個を表している
除夜の鐘は、一年間重ねてきた煩悩(ぼんのう)を打ち消すために鳴らされるという説があります。
煩悩の計算式
6(器官)×3(状態A)×2(状態B)×3(時間軸)=108
煩悩とは
煩悩とは一言でいうと、人間の欲やネガティブな思いなど、悩みや苦しみを引き起こす心の良くない働きを指します。代表的なものに、貪(むさぼり)・瞋(いかり)・痴(無知)の気持ちなどがあります。煩悩をすべて取り払った、人間として理想的な状態のことを、「悟りを開く」といいます。
この悟りを開くためには、仏門に入り、厳しい修行をして、お坊さんにならなくてはなりませんが、みんながお坊さんになるわけにもいきませんし、お坊さんになったら誰でも絶対に悟りが開けるかというと、そういううまくはいきません。
そこで、除夜の鐘には修行を積んでいない一般人に対しても、心の乱れや汚れを取り払う特別な力がある、という言い伝えが現代まで残っており、今でも大晦日の夜に除夜の鐘が鳴らされているという説です。
煩悩の数が108個の理由
人間のすべての欲望は、六根(ろっこん)とよばれる6つの感覚器官から引き起こされます。
- 眼(げん)
- 耳(に)
- 鼻(び)
- 舌(ぜつ)
- 身(しん)
- 意(い)
の6つです。これらの感覚器官がそれぞれに感じ取る状態は5つ2パターンに分けられ
Aパターン
- 好(こう:気持ちが良い)
- 悪(あく:気持ちが悪い)
- 平(へい:どうでもよい)
Bパターン
- 浄(じょう)
- 染(せん:きたない)
この5つは3つの時間軸によって存在していると考えられ、
- 過去
- 現在
- 未来
この六根(ろっこん)・状態・時間軸を掛け合わせたものが煩悩の数だと示されています。
煩悩の計算式
6(器官)×3(状態A)×2(状態B)×3(時間軸)=108
という計算式により、108という数が示されています。この108は日本の仏教の代表的な煩悩の数であり、宗派が変われば煩悩の数も変わります。3000とされたり、84000とする宗派もあります。
説⑵1年間を表している
除夜の鐘を108回打つ説のもう一つは1年間を表すという説です。
月の数(12)+二十四節気(24)+七十二候(72)=108
1年間の月の数
- 12ヶ月
二十四節気(にじゅうしせっき)の数
太陽が移動する天球上の道(黄道)を24等分して名前をつけたもので、一部のカレンダーなどで確認することができます。春分・夏至・秋分・冬至などはよく知られていますが、これらは二十四節気の一部です。
- 太陽が移動する道が1年間で24等分
七十二候(しちじゅうにこう)の数
七十二候(しちじゅうにこう)は、二十四節気をさらに細かく3つに分けて、季節を表すものです。
- 二十四節気をそれぞれ3分割にした72
一年の暦を振り返る作業を除夜の鐘で表したという説です。
説⑶四苦八苦を表している
四苦八苦を、除夜の鐘を撞いて取り除くという考え方です。四苦八苦(しっくはっく)とは、人間のあらゆる苦しみのことを指します。
四苦(4×9)と八苦(8×9)を足して、36+72=108
四苦とは
- 生きる苦しみ
- 老いる苦しみ
- 病気の苦しみ
- 死んでいく苦しみ
八苦とは
- 求不得苦(ぐふとっく)…欲しいもの、求めているものが手に入らない苦しみ
- 怨憎会苦(おんぞうえく)…嫌いな人、恨みや憎しみを抱いてしまう人と出会う苦しみ
- 愛別離苦(あいべつりく)…家族や友人、恋人、先生など、どんなに愛している人ともいつか必ず別れなくてはならない苦しみ
- 五蘊盛苦(ごうんじょうく)…心身を思い通りにコントロールできない苦しみ
を意味します。
説⑷とにかくたくさん打てばいいという考え
108回という数字の意味は『とても多い・とにかくたくさん』ととらえればよい、という考え方があります。
多くのお寺が除夜の鐘を108回としていますが、中には『捨て鐘』といって、2回余分につくお寺もあります。
これまでの3つの説である煩悩の数・1年間を表す数・苦しみの数とて大みそかまでの1年間に自分に起こった出来事・経験したこと・感じたことはとても数えて計算しきれるものではありません。
数字や理由にとらわれるのではなく、除夜の鐘は自分の利益ばかり追い求めたり、都合の良いことばかりを願ったりしてしまいがちな自分の心を見つめ直し、改めるように導いてくれるのです。
3.除夜の鐘をつき始めるベストタイミングは大晦日の23時30分から23時45分の間
除夜の鐘は大晦日の夜に撞くため、何となく年内に全部撞き終わってしまうようなイメージがありますが、ほとんどのお寺では、12月31日のうちに撞くのは107回までなのです。
最後の108回目は、日付が変わった深夜0時以降に鳴らされます。
これは、新しく迎えた年が煩悩に煩わされないように、という祈りを込めて、最後の1回を年が明けてから撞くためといわれています。
ただし地域やお寺によって、年が明けてから1回目を撞き始めるところや、年内のうちに108回全て撞き終えるところもあります。
お寺によっては、一般の人にも除夜の鐘を撞かせてもらえます。そのため、参拝者全員が除夜の鐘を撞くお寺では、除夜の鐘は108回以上になることもあります。逆に参拝者が並んでいても、0時になったら締め切ってしまうお寺もあります。
ですから、除夜の鐘を撞き始めるタイミングというのは地域やお寺によってまちまちなのですが、多くは大晦日の23時30分から23時45分くらいから撞き始めることが多いようです。
気になるお寺で除夜の鐘を撞いてみたいという方は、事前に参拝客にも除夜の鐘を撞かせてもらえるか、大体何時頃から始まるか、予想される込み具合など、お寺に問い合わせておくとよいでしょう。
年末のお寺はとても忙しいので、問い合わせる際は日にちに余裕を持つよう配慮しましょう。
4.除夜の鐘を撞く作法
鐘を撞く前に金に向かって合掌します。一年間を振り返り、煩悩を振り払う気持ちを込めて、鐘を撞きましょう。
一年間の終わりと始まりを告げる除夜の鐘には『年内にあったことは忘れ、新年とともに新たな気持ちで歩みだしていこう』という力強いメッセージが感じられます。
5.まとめ
この一年間、いろいろなことがあったはずです。悪いことがあったのなら、その気持ちを引きずらないように。良いことがあったのなら、それに慢心せず、次のステップに向かって挑戦していきましょう。何もなかったのなら、何か行動を起こしましょう。
今年の大晦日は、除夜の鐘に耳を澄ましながら、自分の心を振り返り、煩悩が消え去っていくイメージとともに、鐘の音のように澄んだ心で新しい一年をスタートできるよう、祈ってみてはいかがでしょう。
どうぞ、良いお年をお迎えください。