催眠療法やヒプノセラピーと聞くと、名前はなんとなく聞いたことがあるけど、どんなことをするのかよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
テレビ番組の影響が強く、「催眠状態の間は自分の意思とは違った言動をするのではないか」と思う人もいるかもしれませんね。しかし、催眠療法での催眠状態とは、自分の意思をはっきりと持ったまま、リラックスした状態のことを指しています。
今回は、顕在意識と潜在意識の両方と繋がる催眠療法についてお伝えします。どこか魔法のような雰囲気も感じる催眠療法の実際を、ぜひ、覗いてみてくださいね。
1.催眠療法とは?
催眠療法とは、心理療法の一種で、人間の催眠状態を利用する心理療法です。
日本では、まだあまり馴染みがない催眠療法ですが、海外では心理カウンセリングと同じように、一般的に利用されています。
催眠療法は、誘導催眠という手法により、普段は閉じている潜在意識へとアクセスし、潜在意識の中に注意を向けていく心理療法です。潜在意識は、普段認識できている顕在意識よりも遥かに多くの情報が含まれていますが、通常はなかなかアクセスすることができません。
催眠療法とは、通常はアクセスできない潜在意識の中にある膨大な記憶の中から、現状改善に必要な情報を拾い上げ、問題解決や自己成長に繋げる心理療法なのです。
2.催眠療法の歴史
催眠療法は一体どこから、誰がはじめた方法なのでしょうか。ルーツを紐解いていきましょう。
発祥はエジプト。そこからローマへ渡った古代催眠
催眠の起源は非常に古く、その始まりは古代エジプトにまで遡ります。
催眠と暗示は密接な繋がりがあり、古代エジプトにあった「眠りの寺院」では、僧侶が信者を眠りに誘い病気が治癒する暗示を与えていました。
この僧侶が信者に施した手法は現在の誘導催眠と非常によく似ています。この手法は紀元前4世紀頃にはギリシャへと伝わり、その約100年後には、ローマ帝国で継承されていました。
催眠療法への誤解が生まれる
証聖王エドワード(1042-1066)は手を触れて癒すことにたけていました。
彼自らが「手のわざ」を使用して承認してから、その価値が広く受け入れられたと言われています。「手のわざ」は心理療法の技術として認められ、イギリス境界も正しい治療法として承認していましたが、時が進みにつれ、「暗示による癒し」の評判はガタ落ちとなり黒魔術と言われる様になりました。
催眠についての多くの誤解が生まれたのはこの時代でした。
ドイツの医師メスメルが黒魔術的な印象をさらに与える
フランツ・アントン・メスメル(1760-1842)に対しても、多くの人は好意的ではありませんでしたが、彼の「メスメリズム」は貴族たちの間で人気を得て、急速に広まっていきました。その後、様々な権威者達がメスメルを失墜させようという委員会を組織し、その結果メスメルは追放されてしまいます。
しかし、彼の理論は消え去ることなく、現在の集団への心理療法やイメージ療法の基礎として引き継がれています。
ただ、当時のメスメルの強烈な印象はその業績にも影響を与え、メスメリズムは黒魔術的な扱いを受けてしまいました。
『催眠療法はオカルトの一種ではない』科学的な見解が発表される
メスメリズムを最初に科学的に研究した医師イギリスのジェームズ・ブレイド(1795-1860)は、メスメリズムを「いかさま」であると確信し、その「いかさま」を証明するために真剣に研究を進めた結果、この手法に引きつけられていきました。
「催眠」、「催眠家」、「暗示」という言葉を最初に使ったのは、ブレイドであると言われています。
ブレイドは催眠状態へと誘導するには「まぶたが重くなる」ことが不可欠だということと、被験者の期待感が高まっていると、暗示を受け入れやすくなるということも発見しました。
医師であるブレイドは、オカルトの一種と考えられていた「催眠」に、信憑性を与え、催眠の力は被験者本人にあり、催眠家には補助的な影響力しかないことを証明しました。
宗教観の違いで催眠療法は再び黒魔術へと…
ジェームズ・エスデール博士(1818-1859)がインドにて、催眠の麻酔効果を外科手術に応用してみたところ、手術中の死亡率が五パーセント以下に低下したという、驚くべき結果を生み出しました。
彼はイギリスでも同じような効果が出るだろうと試みましたが、文化、宗教観、人々が持っている信条の違いによりまったく違った結果となりました。
インドでは「高次の自己」や「変性意識」などの概念が人々に根付いていて、瞑想の習慣が浸透していたので、催眠を受け入れやすい状態でした。
しかし、当時のイギリスでは「苦しみは神が人に与えた尊い試練だ」と言われていた時代だったので、インドでの成果をイギリス医学会で発表したエスデールは、あざけり笑われました。
催眠は再び「怪しげな見せ物」「黒魔術」との認識をされるようになってしまいました。
アメリカで催眠はショービジネスへ
20世紀の初め、フランスの薬剤師エミール・クーエは「すべての催眠は自己催眠である」という発見をしました。
つまり、実際に催眠の効果を生んでいるのは、催眠家が与える暗示ではなく、クライアントの意識であり、クライアントが暗示を受け入れなければ、催眠家が暗示を与えても何も起こらないということです。
クーエはフランス国内で絶大な人気を得た後、自己催眠の理論をアメリカに広めようと渡米しました。クーエの最大のミスは、アメリカでの活動の全ての権利をある興行師に一任してしまったことです。
興行師は催眠療法を単なる見せ物として利用し、催眠は再び怪奇現象のように扱われるようになってしまいました。
3.催眠療法のやり方と効果
催眠療法に前世療法や年齢退行療法、暗示療法があります。
どの催眠療法においても、座ったり横になったりして、リラックスした状態で、セラピストによる誘導催眠で催眠状態に入っていきます。
催眠状態にあっても通常の意識(顕在意識)は常にはっきりとしています。その状態で深い潜在意識の部分にアクセスしており、意識は自分の内面にとても集中した状態に保たれています。
前世療法
前世療法では、潜在意識の深い部分に眠っている前世の記憶を浮かび上がらせます。セラピストの誘導により、今世に必要なメッセージを与える前世や、今世の問題の原因となっている前世に入っていきます。
前世を癒すことは、今世においての癒しに大きく影響し、深い気づきや、問題解決の糸口を見つけることができます。
年齢退行療法
年齢退行療法では、幼児期や乳児期、さらには胎児期にまで年齢を遡って行きます。
現在の顕在意識では忘れていた幼い頃の様々なことが浮かんできます。小さい頃の心の傷を抱える方は、潜在意識の深い部分に残るその痕跡を探り当て、それを再体験し直すことで、新しい気づきや解釈を発見し、問題の解決につなげることができます。
暗示療法
暗示療法では、潜在意識へ肯定的な暗示を浸透させていきます。そうすることで、本来あるべき自分像や持つべき自信を取り戻していくことができます。最高の自己像とはすでに自分の潜在意識の中にあり、それと一体化することで、問題解決や自己変革へと導いていくことができます。
心理治療
通常の意識である顕在意識を保ちながら、セラピストの催眠誘導によって、心と身体を深いリラックス状態に導き、普段は閉ざされている潜在意識への入り口を開いて、アクセスを可能にしていく心理療法です。
問題(悩み)の原因となっていることの改善を図り、解消したり、軽減させていきます。
その結果、あなたは、潜在意識からのメッセージによって、多くの気づきと癒しを得て、新たな視点で現在のあなたを振り返り、本来のあなたの力や自信を取り戻すことができます。
本当にやりたいことや、本当に自分が進みたい道が何かを探り、そしてそれをあなたの顕在意識が納得することで、自分自身の力で問題(悩み)を手放したり、本来の道に足を踏み出したりすることができるようになるのです。
4.催眠療法でできること
催眠療法では、普段はアクセスできない潜在意識の領域に直接アクセスするので、問題の原因の発見とその改善や癒しが、短期間で可能となる場合があります。
その改善や癒しは多岐に渡ります。
- 心の緊張がほぐれる。
- 不必要な抵抗がなくなる
- 普段よりも自分の内面に気付くことができる。
- 潜在意識の奥底に押し込めていた記憶や感情を思い出しやすくなる。
- 肯定的な暗示を受け入れやすい状態になっている。
- 交感神経と副交感神経のバランスが整う。
- 自律神経系の調整機能や自己免疫機能を正常化する作用がある。
5.まとめ
催眠療法とは、セラピストの誘導に従い、顕在意識を保ちながら、普段はアクセスしにくい潜在意識へとアクセスし、様々な問題解決へと導く心理療法のことでした。
催眠療法において癒しや問題解決の糸口が見つかるかどうかは、セラピストのスキルによるものだけではなく、クライアント本人の催眠療法への意識も重要です。悩みを抱える多くの人の心が軽くなることを願っています。