『闘牛』といえば、闘牛場で赤い布をヒラヒラさせて牛を威嚇し、戦う人達の姿を思い浮かべたり、牛同士を戦わせていたり、闘牛と言っても各地において、さまざまな形があります。
ヨーロッパの南に位置するスペインでは、闘牛が国技となっています。そしてスペインのマドリードでは5月が闘牛のシーズンとなっていて、毎日闘牛が開催されるお祭りもあります。では、なぜマドリードで闘牛が行われるようになったのでしょうか。
闘牛の由来は、歴史家によりスペインで始まった説と、スペイン外で始まった説とで対立しています。今回はその両方について説明していこうと思います。
伝統行事として現在まで伝えられている闘牛にはいったいどんな歴史が隠されているのでしょうか。そして現在の闘牛はどのように行われているのかについても詳しく説明していきたいと思います。
1.闘牛とは
闘牛の種類は3種類あります。牛と犬を戦わせる闘牛はイギリスで行われており、残酷なスポーツとして、現在は禁止されています。
牛と牛を戦わせる闘牛は日本でも行われており、牛合わせや牛相撲などとも呼ばれます。
牛の優劣が格付けされたり、あえて引き分けとしたり、それはまるで牛の相撲のようです。牛と人を戦わせる闘牛は、スペインを始めとして、ポルトガルやメキシコでも行われています。
特にスペインでは国技となっており、マタドールと呼ばれる闘牛士が、剣や槍で牛を刺していき、最終的には止めを刺してしまいます。
2.マドリードについて
マドリードは、スペインの首都です。広場や美術館がいくつもあるマドリードは、スペインの中でも人気の高い観光地のひとつです。
スペイン国内最大級の闘牛場であるラス・ベンタス闘牛場があり、その大きさは、メキシコ、ベネズエラの闘牛場に次いで、世界第3位です。
3.スペインにおける闘牛
闘牛はスペイン語でcorrida de torosと言います。これを略してtorosという呼び方が多いです。torosとはtoroという単語の複数形であり、toroとは、オスの牛という意味なので、torosとは直訳するとオスの牛達という意味になります。
スペインには500以上の闘牛場があり、闘牛はスペインの代名詞とも呼ばれる程、世界的に有名です。
スペインでも、最高の褒め言葉として「トレーロ」という言葉が使われ、意味は闘牛士です。現在でも、闘牛士は、勇敢なスペイン男性の象徴となっています。昔は、子供たちが、闘牛士になり有名になってお金を稼ぐことを夢見ていました。
4.闘牛のはじまり
なぜスペインで闘牛が行われるようになったのでしょうか。
闘牛がスペイン外で始まったとされる説とスペインで始まったとされる説の2種類があり、歴史家の中で対立しています。
・ミトラス教から始まったとされる説(スペイン外)
1世紀から5世紀にかけて、キリスト教と並ぶ救済宗教として、絶大な支持を集めていたミトラス教によるものが原点だと言われています。
ミトラス教は牝牛を屠るミトラス神を信仰した宗教です。ミトラス教の内密に行われていた儀式について、大部分が謎のままですが、世界を創造する子宮を意味する洞窟内で、試練を伴う入信式があったと言われています。
組織は、父(土星)、太陽の使者(太陽)、ペルシア人(水星)、獅子(木星)、兵士(火星)、花嫁(金星)、大烏(月)という太陽系の星を守護神とした7つの位階があり、入信式で牝牛の血を浴びる儀式があったと考えられています。
ミトラス教の秘密の儀式には、牝牛を屠ることにより、新たな生命力を吹き込み、太陽と世界を救うという意味がありました。これにより闘牛は、牝牛を用いた魔術的な儀式を起源に持ち、儀式が遊びへと変化し、見世物へと変わっていったと言われています。
・クレタ島から始まったとされる説(スペイン外)
クレタ島で栄えた文明をクレタ文明と言い、ミノア文明とも呼びます。クレタ文明は牛を神聖な生き物だと考えていました。
春の訪れを祝い、重要な位置に牛を置き、魔術的な祭典が開催されていました。それは、一人の青年が牛を戦い、牛を殺し、その血を村々の大地に撒くというものです。この祭典が発展して闘牛となったと言われています。
・コロッセオから始まったとされる説(スペイン外)
イタリアのローマに建てられているコロッセオという円形の闘技場があります。
コロッセオでは、剣闘士同士、剣闘士と猛獣による戦いがローマ人の娯楽として行われていました。この見世物の戦いが闘牛の始まりだという説があります。
・イベリア半島から始まったとされる説(スペイン)
レコンキスタの時に、キリスト教信者の貴族が、馬に乗る騎士の訓練のひとつとして始め、徐々に様式化されていきました。
騎馬で野生の牛を槍で突くなどした貴族の狩猟の風習が貴族の闘牛です。それと同時に民衆の間でも「牛追い祭」が開催されるようになります。これが民衆の闘牛です。
のちにこの2つは、融合し、今の闘牛に近い形へと変化していきます。とどめを刺す時に、牛を走らせ、屋根の上からは見物人がその様子を見て楽しんでいました。
これを繰り返すことで、角を避ける身のこなし方や、刺殺する技術が身についていきました。貴族に変わって闘牛を行う人を探すときは、活躍出来る人達に目を付けました。ここから、馬に乗らない闘牛が定着されていきました。
スペインの闘牛の記録として残っている最も古い闘牛は、1080年に結婚を祝って行われたものです。
1107年も結婚の時に行われていますが、その際キリスト教徒とイスラム教徒が交代で牛に槍を刺したという記録が残っています。
4.現在の闘牛
スペインの闘牛は、現在も行われており、シーズンは、毎年3月のバレンシアの火祭りから、10月中旬のサラゴサのピラール祭までで、毎週日曜日に国内の闘牛場で開催されています。
地方にある闘牛場は各地の祭りに合わせて開催しているところがあるので、毎週日曜日というわけではありません。
そして5月は約1ヶ月間、毎日闘牛が開催されるサン・イシドロ祭りがマドリードであり、有名な闘牛士と、由緒ある闘牛牧場の牛が出場します。
5.闘牛廃止が加速している理由
スペインの国技となっている闘牛ですが、2000年に動物愛護団体からの強い批判が相次ぎ、観客数が減っていきました。2007年には国営放送で闘牛の生放送の放映を中止しました。
予算削減も重なり、スペインの闘牛の試合回数も半分近くに減ってきており、2010年には、動物愛護団体などから廃止を求める18万人分の署名を提出したことを受け、カタルーニャ州(州都バルセロナ)では、スペイン初の闘牛禁止法が成立されました。
これにより2011年にはスペイン全土で闘牛のテレビ中継が終了し、カタルーニャ州最後の闘牛が9月に行われました。
そして2012年以降はカタルーニャ州内で闘牛を行うことが禁止となっています。闘牛廃止の運動はスペイン各地に広がっていますが、今のところカタルーニャ以外に禁止を決める州は出てきていません。
6.まとめ
5月になるとマドリードで毎日開催される闘牛ですが、始まったとされる由来はいくつもあり、どの説が正しいのか定かではありません。
ですが、これらの由来を知った上で闘牛に触れることで、牛と人との闘い以上の物を得ることが出来ると思います。最近では動物愛護の観点から批判や反対がありますが、その反面スペインの伝統を大事にしたいと考える人もいるようです。