古代エジプトでは、霊魂は不滅だと信じられ、死後も霊を生かしておくには肉体をそのままの形に保たねばならないと考えられていました。
だから死体を腐敗させないで保つ為にミイラは考案されました。紀元にしてBC2600年から紀元前後のキリスト教時代にいたるまでミイラは作られたと言います。
そんなミイラが当時どうやって作られたのかこのページでは解説していきます。ミイラの作り方を追っていく上で、古代文明人の精神を垣間見ることができます。
1.古代人は「人は永遠に生きる」と本気で考えていた
古代エジプトでは、肉体は死しても魂は死なないという考えが主流で、現世の行いがよい方のみその魂は来世で復活し永遠を生きると考えられていました。
そして、来世で復活を遂げた魂は現世の器を使うと考えられていた為、なるべく、損傷の無いようにそのままの形を残すという考えに至り、ミイラが誕生したのです。
“生の尽きたものから、内臓を綺麗に取り出し、防腐処理を施したあと、包帯をぐるぐる巻いて、『ミイラ』にします。その物体をなぞの呪文(ヒエログリフ)が書かれた木の棺に横たえ埋葬をします。“
それでは、どのような工程でミイラが作られるのか、詳細に見ていきましょう。
2.はじめに|準備するもの
- 棺
- 天然ナトロン
- リネンラップ(包帯)
- カノポス壺(オプション)
- 鍵棒
- 松脂
- エバーミング・ツール(死体の防腐処置に使う器具)
- 死者の書・お守りなど棺に一緒に入れるもの
基本の作り方は同じですが、身分の違いによって、一緒に入れるものや棺のレベルはランク分けがあったようです。
3.ミイラ作りスタート
1. まずは遺体を洗浄します
まずは文字通り死体を洗浄します。水をかけ、デッキブラシでゴシゴシとくまなく汚れを落とします。この工程はすべての作業後、包帯をまく前にも施されるようです。
2. 内臓摘出
腐敗が速い内臓をてばやく取り出していきます。
わき腹を切開して取り出したり、下半身から取り出したりと色々方法はあったようです。このとき取り出された内臓は、腐敗処理(乾燥処理)を施し綺麗に一つ一つ包帯で巻いていきます。そして心臓以外を『カノポス壺』というものに収めていきます。
心臓は死者の書通り『審判』で使うため、包帯を巻き、体内へ戻されます。
→死者の書についての解説はこちら
しかし、壺が使えるのは、いわゆるお金持ちだけで、位の低い人になると、内臓は取り出さず、杉脂を流し込み溶かして液体にしたり、下剤を用いて体外に排出したりする方法などもあったようです。
3.漬け込み作業
死体を昼夜にわたって天然炭酸ナトリウムに浸け込みます。
次に脳の取り出しに関しても諸説あるようです。金属の棒を鼻からいれて、搔き出したといわれる方法が最も多く囁かれていますが、このやり方だと、鼻の奥の骨を破壊してしまいます。
なので、内臓と一緒で杉脂を混ぜ込み溶かし排出する方法やエジブトの気候で腐らせ、自然に溶け出させたという説話が有力です。
4. 乾燥作業
死体・取り出した内臓を乾燥させます。
時代によっても、この乾燥に関して使われた道具はさまざまで、最初はそれこそ干物のように、天日干しや、塩などで、乾燥をさせていたようです。しかし、塩などだと、皮膚の損傷が激しいため、ソーダ水などが使われ始めます。
最終的にはナトロンというエジプトのナイル川河川敷から大量に取れた高級物質の天然ソーダが使われるようになりました。
5. 美容整形
死体について、『復活をする』のがミイラのテーマなので、生前に限りなく近づけるため、詰め物をして形を整えたようです。
まず乾燥させる前段階で、皮膚等が硬くなり修正が効かなくならないよう、内臓を取り出した場所や頬などには、ある程度詰め物をしておきます。また、乾燥で爪が落ちないように紐でクルクルと縛ったりもしていたようです。
そして、乾燥をさせた後、1の工程と同じく体の表面をデッキブラシなどで綺麗に洗浄し、再び隙間ができた部分などに細かく詰め物をして生前の形に整えていきます。
5.包帯梱包
52日間かけて乾燥をさせた後、体全体に18日間弱かけて包帯を巻いていきます。
包帯といっても、今のように一本の太さがそろったものではなく、麻布の切れ端を帯状に縫い合わせものらしく、これを乾燥した死体に松脂を塗りながら、死体に貼り付けるよう巻いていったようです。
包帯の巻き方が美しすぎると賛美された実際のミイラ
初期のミイラは、「樹脂に浸した包帯で遺体を巻いただけのもの。」だったそうですが、その後、手法は飛躍的に進歩し新王国時代に完成したと言う事です。エジプト史としては最後に近いタイプですね。
4.お金持ちのオプション|カノポスの壺
工程2で内臓を収める『カノポスの壺』というものが出てまいりました。この壺は全部で4つあり、それぞれホルス神の息子を形どっています。それぞれに収める臓器が分かれているので、簡単にご紹介しておきます。
イセムティ |
人間の形をしており、肝臓を収める
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ケベフセヌエフ | 隼(ハヤブサ)の姿をしており、腸を収める
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ドゥアムトエフ | 山犬の姿をしており、胃を収める
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ハピ | ヒヒの姿をしており、肺を収める
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内臓をそれぞれにいらた後はフタをして、石膏で封印します。
5.古代人が信じていた人間の5大要素
ミイラを作っていた古代人の「死」の概念は現在の私たちとは大きく違う部分ば5つあり、それを『五大要素』としてまとめました。 古代人が何を守っていたのか、また人格を構成しているといわれる 五大要素とはどういったものをさすのか、少し掘り下げてみましょう。
①生命力
『人間』の姿をしており、 人の誕生と共に生まれ、死後もともにあり続けるものをいいます。 また、死した者の子供へも受け継がれていく代々の守り神のような 役目もします。 カーは宿主と同じ姿形をしており、宿った人物が歳を取れば、その形を映し、 病に冒されれば弱弱しくなる、まるで自分の分身のような存在です。 しかし宿主が亡くなっても、自身は亡くならず、死後復活を遂げれば、 再びそのもののところで寄り添います。
②復活
鳥の姿をしていますが、頭の部分は宿った本人と同じ顔をしているそうです。 また、先ほどの『カー』は宿主に寄り添う形でしたが、 こちらは宿主の一部になり、欲望や欲求を共有します。 宿主が死を迎えると一旦離れますが、復活と同時に戻ってくるそうです。 そのため『魂』に一番近い存在だといわれています。
さらに『高貴な変貌』。死した後、 その魂を上のランクにクラスチェンジすることから言われるようです。 また、カーやバーとは違い、生あるうちには存在せず、 死後、復活をしたものだけがもてる「祝福の証」でもあったようです。
③肉体
古代エジプト人が肉体の中で最も重要視した心臓。 (※カノポスの壺に出てくるケベフセヌエフが 守護要素としていた『イブ』が心臓に当たります。) 心臓には、人間を構成するすべてのものが入っていると思われ、 死者の書の中でも、最後に天秤に載せられ、審判されます。 そのため他の内臓とは違い、防腐処理を施したあとの心臓は、 体内へと戻されます。
④名前
古来日本でも「言霊」という言葉があり、呪術などで相手を縛る際、 使われてきました。 エジプトでも名前というのは、かなり重要視されていたようで、「名前を消される」 と、言うことは、「その人物の存在を消し去る」ことと、同等に考えられていたようで、 記念碑などの名前が消されたり、罪人などの名前を取り上げたり されたそうです。
⑤影
太陽が崇められていた時代、太陽から作られる影はあるいみ神のような存在とされていました。人の後ろにできる影は、自分自身を守る守護霊だと考えられていたこともあったようです。
6.ミイラの作り方をまとめてみて気づいたこと
先に紹介した『簡単な手順』の工程は、およそ70日間なのですが、実はこの『70日』という数字にはちょっとした意味があります。
その当時、太陽と同じくらい信仰されていたシリウス星。
70日というのは、そのシリウス星が地平線の下に隠れ、再び姿を現す期間だといわれています。そしてミイラを作る期間が70日間。
古代エジプト人はミイラを作っている間に死者の魂がシリウスに逢い、神になると考えたようです。もちろんすべてが神になるわけではありません。その70日間、死者の書にしたがって歩みを進める死者は たくさんの質問責めに合い、心臓と真実の羽を天秤にかけられます。 羽よりも軽い心臓。そこで初めて善良な者だったと認められ、永遠の命を与えられます。
では、もし心臓のほうが重かったら?
もちろん、罰が待っています。その審判中、後ろに控えているアメミットという幻獣に その心臓はその場でパクリと食べられ、永遠に復活ができなくなるのです。 それでも古代エジプト人たちは、『永遠』を欲して、ミイラを作りました。
いつの時代でも『永遠の生命』とは、憧れの的だったんですね。