7月7日の七夕伝説と言えば、織姫と彦星の恋物語。離れ離れになった恋人同士が1年に1度だけ天の川を渡って会う事ができるなんて、素敵な話ですよね。
7月7日の七夕には短冊に願い事を書きながら、とりわけ恋人同士なら七夕伝説に思いを馳せてロマンチックな気分になるもの。しかし、この七夕伝説は、もともとは単純に織姫と彦星の恋模様を描いた物語ではないのです。
今回は本当の七夕伝説の結末と、そこから得られるとても深い教訓を特集します。物語の終焉をしることでまた違う夏の風物詩を感じられます。
1.七夕伝説の発祥は中国
中国の『文選』の中にある、漢の時代に編纂された「古詩十九首」の織女(織姫)と牽牛(彦星)の物語が、文献として初出された七夕伝説。その内容を覗いてみましょう。
現在、日本に伝わる七夕の風習は、奈良時代に中国から伝わり現代でも語り継がれ風習になっているのです。
《あらすじ》元祖・中国の七夕伝説
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織女と牽牛の結婚
その昔、天の川の西に住む織物が得意な織女と、天の川の東に住む牛飼いの牽牛がいました。
星空を支配する神・天帝は、美しく働き者であった織女に目をかけており、彼女に見合った結婚相手を探しておりました。
天帝は働き者の好青年の牽牛のことを知り、織女との結婚を申し付けます。牽牛はすぐに心惹かれ恐縮しつつ受諾。織女と牽牛は晴れて夫婦となり、織女の住む天の川の東に暮らすようになりました。
結婚後二人は軽佻浮薄になり桃源郷へ働かなくなる
ところが、2人は結婚した途端に本来の仕事を忘れたかのように、天の川のほとりでお喋りに興じるばかり。働くように嗜めても聴く耳を持たない2人に業を煮やした天帝は、牽牛を天の川の西に引き離します。離れ離れになった悲しみに暮れ、一層働く気を失った織女と牽牛。
天帝が怒り1年に1度限定でしか巡り会えないと条件をだされた
2人を見かねた天帝は、以前の様に精を出して働く事を条件に、年に1度、7月7日の七夕の日に会う事を許します。
こうして織女と牽牛は、年に1度だけ会える日を待ち焦がれながら、再び懸命に働くようになりました。
《教訓》恋に溺れるあまり本分を忘れた男女の終焉
七夕伝説は素敵な恋人の逢瀬物語と考えていた人は、少し衝撃を受けたかもしれませんね。七夕伝説は織女と牽牛、つまり織姫と彦星は恋人同士が結ばれる物語ではなく、生き別れとなった夫婦の物語だったのです。
お互いが自分を律し、愛する者同士で手を取り合って素晴らしい家庭を築いていくのが結婚の本来の在り方です。
恋人との語り合いは時を忘れるほどロマンチックなものですが、恋に溺れて自堕落になってしまっては本末転倒。
真の愛や幸せとは何なのか、自分の役割は何なのかを見つめ直しなさいという教訓が、この七夕伝説には描かれています。
2.日本で語り継がれる七夕伝説
奈良時代に中国から伝わった七夕伝説から、日本でも諸説が語られる様になりました。平安時代に作られた「御伽草子」には、次のような物語が収録されています。
日本に伝わる七夕伝説のあらすじ
ある日、大蛇が3人の娘を持つ男の前に現れました。
娘を嫁に差し出すか、父親の命を差し出すかという大蛇の要求に、名乗り出たのは父親想いの末娘(織姫)だけでした。大蛇の元に嫁いだ娘に、大蛇は自分の頭を刀で斬る様に言います。
娘が言われた通りにすると、大蛇の中から天雅彦(彦星)なる立派な美男子が現れたのです。こうして2人は夫婦として幸せに暮らす事になったのですが、ある日、
天雅彦「3週間たっても戻らなかったら西の京の外れに住む女から一夜杓を受け取って天に来きてください」
と言い残して天に戻ってしまいました。
娘は3週間経っても戻らない天雅彦を追って天に登り、喜びの再会を果たしますが、運悪く天雅彦の父親に見つかってしまいました。
鬼であった父親はこの結婚に反対しており、天雅彦と引き離そうと娘に数々の試練を課します。
しかし、健気にも次々と乗り越える娘に、父親もやがて認めざるを得ない気分になり、
鬼の父親「月に1度なら会っても良い。」
と言いました。娘はこれを「年に1度」と聞き間違えてしまい、その瞬間に父親が手にしていた瓜を投げつけ2人の間に天の川を出現させてしまいます。こうして、娘と天雅彦は、7月7日、年に1度だけ会う様になったのです。
《教訓》愛は救われるが用心が必要
同じ夫婦の話でも、中国の元祖・七夕伝説よりロマンチックな展開に描かれた日本の七夕伝説。
日本に伝わる多くの昔話と同じく、中盤までは『情けは人のためならず』の精神が見られます。
身を呈して大蛇の元に嫁いだ娘の自己犠牲の精神は、結果的に天雅彦という最良の伴侶を得ることとなりました。
ところが、結婚生活には試練がつきものです。相手を誠実に思う気持ちと、強い心はいつか巨大な岩をも動かす…と言いたいところですが、娘の早とちりがなければ月1回は会えたはずでした。最後の最後こそ冷静さが必要という教訓も、同時に込められている様でもあります。
3.国によって違う七夕伝説
実は七夕伝説は中国や日本だけでなく、世界各国で天の川や夜空の星にまつわる独自の物語が伝承しています。
所変われば夜空を眺めて思うことも様々ですが、人が星に愛と勤勉さの教訓を得ようとするのは各国共通の様です。
ギリシャ神話の七夕伝説
琴の名手であった青年オルフェウスは、森の妖精エウリディケと結婚して幸せに暮らしていました。
ところがある日、エウリディケが毒蛇に噛まれて死んでしまいます。オルフェウスは様々な苦難を乗り越えて天国に行き、「一度だけエウリディケを生き返らせて下さい」と大王ゼウスに懇願しました。
ゼウスはオルフェウスの願いを受け、「地上に戻るまで決して振り向いてはならない。」という条件を出しますが、オルフェウスが地上寸前で後ろを振り返ってしまったため、エウリディケと二度と会えなくなってしまいました。
悲しみに暮れたオルフェウスは川に身を投げて死んでしまいます。
哀れに思ったゼウスは、川を流れる彼の琴を拾って琴座を作り、今も響く夜空の音色に2人を偲んでいるのだといいます。
フィンランドの七夕伝説
昔、ズラミスとサラミという仲睦まじい夫婦がありました。
2人は深く愛し合っており、死後は共に天に昇って星となりますが、距離が離れすぎていてなかなか会うことができません。
ズラミスとサラミはお互いに会いたい一心で、1000年の歳月をかけて空の星屑をすくい集めて光の橋・天の川を作り上げます。こうして、2人は光の橋を渡って再会することができたのです。
4.まとめ
七夕伝説とは、どれにも奥深いあらすじがあり、必ず結末に教訓を得られるものばかり。単純に織姫と彦星の逢瀬を思い浮かべるよりも、7月7日の七夕がより感慨深いものになりますよね。
さまざまな七夕伝説にまつわる教訓を胸に短冊へと願い事をしたためると、去年とは違った意義を見出せるかもしれません。