日本書紀の中でも特に謎に包まれているのがツクヨミの神です。月の神と言われる理由は『月読宮様』と呼ばれる地域が存在し、 姉に天照大神といった太陽の化身の神がいること。月読みは三貴神の真ん中っ子で、姉の天照大御神と弟スサノオに挟まれています。
他の姉弟に比べツクヨミの記述は極端に少なく、性別不明・役割不明・消息不明なミステリアスな存在。今回ツクヨミのあらわになっている部分を詳しく解説。
1.夜を支配するツクヨミのプロフィール
日本神話の神様の呼び名は複数あり、ツクヨミも同じです。
アマテラスを調べた時も8つの呼び名がありました。
名称 月夜見(ツクヨミ) 呼び名が複数ある 古事記|月読命 仕事 夜の食国を統治 |
ツクヨミの上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい)に直すと、その表記には、ヨ『乙』、ミ『甲』で甲類で一致しています。
上代特殊仮名遣いとは
古事記・日本書紀・万葉集など、上代(奈良時代)の万葉仮名文献に用いられた古典期以降には存在しない仮名の使い分けの事です。—–ウィキペディア参照
上代特殊仮名遣では月読(ツクヨミ)の『ヨミ』が『暦や月齢を数える』余美・餘美(読みの訓字例)がヨ『乙唯類』、ミ『甲類』で月読と一致していることから、ツクヨミの原義は日月を数える読みからきたと考えられています。月の満ち欠けが暦の基準として用いられている事からも、ツクヨミは暦や時を支配する神格として解釈されています。
2.ツクヨミの誕生について
ツクヨミの誕生については古事記と日本書紀では少し記述にニュアンスの違いがあります。
古事記では黄泉の国の禊中にツクヨミが誕生したと書かれている
古事記では黄泉の国から戻ったイザナギ(ツクヨミの父となる神)が穢れ(けがれ)を払うため築地にある日向の阿波岐原で禊(みそぎ)を行ったとき、
左の眼を洗うとそこからアマテラスが誕生し、右の眼を洗うとツクヨミが誕生し最後に鼻を洗うとスサノオが誕生した。
日本書紀ツクヨミのことを月の神と書かれている
イザナギとイザナミが日の神オホヒルメノムチ(アマテラス)・月の神・スサノヲを生んだ。光輝くオホヒルメノムチは天へ送り、日の次に輝く月の神も日と並んで統治させるため天へ送り、乱暴者であったスサノオは地上へと追い払いました。
ツクヨミの事を『月の神』と記しています。
古事記・日本書紀それぞれツクヨミの誕生のことは触れられているのですがその後の記述はほとんどありません。呼び名も違いますが、共通している『月』『夜』というキーワードは同じです。
- 古事記ではツキヨミのことを月読命と記載しています。
- 日本書紀ではツキヨミのことを月読尊・月夜見尊と記載しています。
どちらの内容も全く正反対のことを掲載されているというよりは同じことの違う部分が掲載されているというニュアンス。ツクヨミが月・夜を司る神であり、三兄弟の真ん中っ子であるということは事実です。
3.姉と大げんかする話
アマテラスと共に天の統治を言い渡されたツクヨミ。ある日、アマテラスから頼まれごとをされたことから大きな自体へ発展してしまう出来事が起きます。
姉アマテラス『地上世界の葦原中国(あしはらのなかつくに)にいる保食神(ウケモチ)を見てきてはくれない?』
ツクヨミ『わかりました姉さん』
ツクヨミは地上へ降りるとウケモチのもとへ行きました。
保食神(ウケモチ)とは?
『古事記』には登場せず、『日本書紀』にのみ登場する食物起源神話の女神。
女神ウケモチ『ツクヨミ様よくぞいらしてくれました。手厚くお迎えいたします』
ウケモチは食物起源の女神。ツクヨミのために陸を見て口から米を出し、海を見て口から魚を出し、山を見て口から獣を吐き出し、ツクヨミをもてなします。
ツクヨミ『口から吐き出したものを食べさせるとはなんと汚らわしい』
と怒り、ウケモチを剣で斬り殺してしまう。この事を知ったアマテラスは怒り狂います。
姉アマテラス『お前とはもう二度と会わない』
この事から、太陽は昼に月は夜に別れ二度と会わない様になったと言われています。
4.ツクヨミの性別予測
古事記にも日本書紀にもツクヨミの性別は書かれていませんが、男神だったのではという話もあるのでいくつかの説を紐解いてみました。
男神説①アマテラスが女神であることから正反対制を論じた
太陽であるアマテラスは女神であることからその対照的に書かれているのがツクヨミなので、性別も反対であるとし夜を支配する月であるツクヨミは男神と考えた説。
男神説②剣で斬殺した行いから論じた
ウケモチを剣で斬殺するその行動からも男神なのではないかとささやかれた。
男神説③ツクヨミとスサノオは同一人物
スサノオとツクヨミの記述には似たようなエピソードが多く、二人の支配領域も被っていることが多いため、じつはスサノオとツクヨミは同一人物なのではないかと言われています。 ツクヨミの記述が少ない事もこの説の一つになっています。
スサノオは最終的に姫と結婚するので男神であることは明確です。ですが誕生のことが記載されていることからこの説はかなり薄いと考えます。
女神説①アマテラスとは双子設定
アマテラスとツクヨミは双子の姉妹として誕生したのではないかとの説もあるようです。
女神説②月の象徴は女性性であること
月は女性への影響が強く、バイオリズムにも関わることや、月の象徴が女性性が強いことから女神ではないかと考えられた。
古事記にも日本書紀にも万葉集にもその性別は記されておらず、本当の性別は謎のまま、今後も明らかになることはなさそうです。
神様が性別を持つようになったのはイザナミとイザナギの代が初めてでありその前は性別性はなかったので、そこまでこだわりがなかったという考えも重視できます。
5.ツクヨミの最後
あまりにも記述がないので、古事記で書かれたツクヨミ最後の姿からその後のあしどりを予測してみることにしました。
古事記では『夜の食国』を納めるよう命じられた以降、ツクヨミは記述の中に登場しません。
三貴神の分割統治の出来事
イザナギは生まれた三貴神の子供に次項のように役目を授けます。
アマテラスには首飾りを渡し
イザナギ『あなたは高天原を統治しなさい』
次に月読命(ツキヨミノミコト)に首飾りの玉を渡し
イザナギ『あなたは夜の食国を統治しないさい』
次にスサノオに
イザナギ『あなたは海原を統治しなさい』
ツクヨミに『食』に関して依頼するとは唐突なことで、少ない記述ながら伏線がなさすぎることから、『夜の食国=黄泉の国』と解釈する人も少なくありません。ツクヨミは黄泉の国での活動をしたので記述がないのかもしれません。
夜は確かに黄泉の国と繋がるような感覚がありますし、死者は昼にはお出ましになることはありません。
6.まとめ
月読命は謎の多い神です。記述が少ないため、その謎が明かされることは難しいのかもしれません。 夜を支配する月の神であり、謎の多い事から現代でも興味を惹かれる人が多く人気のある神様です。 太陽の神である天照大神と対照的に描かれている神であり、三柱神という日本神話の中でも最高位に位置する神の一人です。
天照大神や素戔嗚尊のように多くの記述がないのも不思議です。 これほど記述が少ないのにも関わらず、暦や日月を支配する神格として描かれているツクヨミはとても神秘的で偉大な神ではないでしょうか。