錬金術はかつて『トンデモ化学』とも表現され、はっきりとした起源は謎に包まれています。残っている文献では紀元前3世紀にギリシアのアレクサンドロス大王がエジプトに建設した大都市・アレクサンドリア時代で飛躍発展と残されています。
錬金術とは化学的手段を使って、完全な存在に錬成する試みを指すための術のことで、硫酸・硝酸・塩酸・金属を使用、人間の肉体や魂をも対象としてあつかったとか。
今回は錬金術のルーツとその方法について探求してみました。栄えていた時代は16世紀、その頃日本は室町時代後期(戦国時代)です。
1.錬金術の原典ヘルメス文書とは
錬金術を追求していく上で、原典となった『ヘルメス文書』に辿りついた。本題に入る前にヘルメス文書について知っておく必要がある。
紀元前3世紀ギリシアのアレクサンドロス大王がエジプトに建設したアレクサンドリアという大都市がありました。当時、アレクサンドリアは各地から詩人や学者たちが集まっており、学術研究所・科学医学・数学・哲学が盛んでその時代ではありとあらゆる分野での先進の知の宝庫でした。
中でも古代賢者ヘルメスが記した膨大な著作物を42冊にまとめた『ヘルメス文書』が、後の錬金術の原典ともいわれ、錬金術はエジブト文明を生んだ土壌でギリシアの援助で発展したことはまちがいない。
ヘルメス文書ステータス
ヘルメス文書(もんじょ)またはヘルメティカ文書 |
著作:ヘルメス・トリスメギストス 文字:ギリシア語 内容:神秘主義的な古代思想の文献写本の総称 |
化学の発端が『神』を証明するものであったように、ヘルメス文書も『神』の製造・人間を神に作り変えるを目的としたものだったのではないかと考えられる。
大都市アレクサンドリアには、『ヘルメス文書』の他に大陸中から集められた膨大な蔵書が収められた。しかし、その時代も長くは続かず、アレクサンドリア図書館は4世紀末にキリスト教徒の侵攻を受け、消失。
弾圧を逃れた錬金術関連の文書
当時のキリスト教は国教としての力を振るい、異端の宗教をかなり弾圧していました。ヨーロッパはその後長い暗黒の時代を迎えることになります。
なんとか難を逃れた学者や書物は、イスラム圏に逃れます。錬金術を英語で「alchmy」と示しますが、この語源は実はアラビア語なんです。当時のアラビアは錬金術以外にも様々な学問が発達しており、地中海近隣の国から多くの学者が集結していたのは間違いありません。
ヨーロッパに戻った錬金術
ヨーロッパから錬金術を追い出したのがキリスト教なら、再び呼び込んだのもキリスト教でした。11世紀に始まった十字軍は様々な影響をもたらしましたが、イスラムの文化をヨーロッパにもたらす役目も果たしたからです。
十字軍とは
十字軍とはカトリック系のキリスト教が聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還するために派遣した遠征軍。
侵攻遠征は1096年から約200年も繰り広げられ血の制裁を下していたことから、歴史にも未だ根が深く刻まれています。
また国同士の戦争が元で、ギリシア人の避難民が「ヘルメス文書」などの古代神学者の本の写しを、ユダヤ人の避難民ははユダヤの神秘思想である「カバラ」を、それぞれイタリアに持ち込みます。そのためルネサンスでは、錬金術はヘルメス思想とカバラ神学が融合したものへと発展します。
2.錬金術の真の目的
錬金術の例を一つあげることでよりわかりやすくなります、
鉄や鉛を金に変える=錬金術
さて、そもそも鉄や鉛を金に変えるなんて…と結論するほど思考は固まっている現代だと思いますが、当時は本気で追求し訓練を重ねていたのです。
錬金術は「卑金属を貴金属へと変性させる」ことを目的の一つ、さらには「存在を高次元のものに進化させる」のが目的で、物理的に金属を貴金属に変えることは、まさに目的を実践的に証明する実験。必ず成し遂げられると熱意あらわだった。
目指すべきは『人の神性の回復』人と世界を新たなる次元へと昇華させることこそ、錬金術の真のテーマ。人は神にどこまで近づけるのか、そのためには何をすべきなのか。それを求めていく学問でした。
これが良くなかった、人間史において踏み入れてはいけない一歩だったとも言われています。
3.錬金術が『胡散臭い』とされる2つの理由
理由①弾圧を逃れる建前として利用された説
錬金術があった時代は宗教上の論争が非常に激しく、キリスト教徒が絶対的な権化でありそれ以外の異教への弾圧は凄まじいものがありました。
そこで利用されたのが錬金術、「邪教じゃなくて錬金術ですよ。鉄や鉛を金にしますよ。とても役に立つ技術です」という形にして、その矛先を逃れつつ資金を集めることにも成功。そのため対外的にはその神秘性や哲学性などは秘められ、結果的に科学や医学、天文学(星占い)などを発展させることになったのです。
実際にかなりの数の人が錬金術を代名詞に異教への信仰を厚くした人々も多くいたのだとか。
理由①限られた人にのみ伝承され真実が歪んだ説
錬金術にいそしむ研究者たちは、隠れてその神秘的な教えと崇高な精神を守る団体を作りました。いわゆるオカルト秘密結社です。薔薇十字会やフリーメーソンは有名ですし、今でも現存していますね。
弾圧から経典を守るのはもちろん、もともと錬金術は古くからその教えは秘密とされていました。なぜなら錬金術は神へと至る崇高で神聖な学問で、大衆向けではないのです。
俗人に安易に伝えてはならなかったことからその真意を語る人物以外少数派。多くはエンターテイメントや商売の餌など裏稼業がはびこり、その真実味は風化されました。
4.錬金術がもたらしたもの
科学の礎(いしずえ)
錬金術は本質の探求と実践を重んじ、その目的は物質や人の魂をより高次元へと変性させることでした。
それは表舞台では科学や医学などの礎となり、多くの学者や研究者を導きました。特にルネサンスをきっかけに中世の暗黒を抜ける知の光となったのです。
今でこそ科学が科学が進歩するとともに錬金術師たちの研究「金の錬成」は不可能であることがわかり、廃れることになってしまいました。しかし盲目的に神に祈ることしか許されなかった時代、錬金術の果たした役割はとても大きかったのです。
人類の進歩
人は新たな次元へ進化することができるかもしれない。それを真に追い求めた人々が錬金術を伝えました。
紀元前から現代に至るまで絶えることなく、人は自分自身の謎と可能性に思いを馳せ、探求してきました。
肉体を鍛え知恵をつけ… そしてその行き着く先は意識の変容、より高次元の自己への進化を目指すのかもしれません。古今東西を問わず、それらは不思議と同じ方向を指し示し、秘教として守られてきました。
そんな秘教の中でも「ヘルメス文書」を中核として発展し、西洋で研究されてきたのが「錬金術」です。科学の探求者としての役割を終えた錬金術は、純粋にこの世界の神秘や人の心の可能性を模索する学問として、今もその叡智は受け継がれています。
5.まとめ
現代のニューエイジと言われる動きも、もとをただせば伝えられ守られてきた錬金術の教えが、形を変え時代に合わせて生まれたものです。西洋の神秘が目指した人の進化のあり方は、ニューエイジ風に言えば「アセンション」ですね。そう、案外身近に私たちは錬金術に触れていたりするんです。